第16回より、シリーズで戦前の大富豪本多静六の著書
『私の財産告白』
に焦点を当てながら
お金とは?ということについて考えています。
前回は、本多がなぜお金持ちになろうとしたのか、
その理由が
「貧すれば鈍するから」
であり、これは行動経済学の用語で
【トンネリング】だ、
ということをお話ししました。
本当に怖い【トンネリング】状態
今回は、その続編です。
前回もお話ししたように、私たちの身近には
数多くの【トンネリング】が
起こっています。
今回もその具体例を挙げていきましょう。
具体例その③「ミッシングワーカー」
(NHKスペシャル2018.6.2より)
出典:NHKスペシャル
ミッシングワーカー、ご存知ですか?
私は知りませんでした。
端的に言えば、「40~50代ニート」です。
(ニートの概念はあくまで若年層なのです。
これも初めて知りました)
欧米でも大変な社会問題となっている
このミッシングワーカー。
日本では、103万人と推定されています。
103万人!
百万都市の全員が失業者という恐ろしい数字です。
想像するとゾッとしますね。
求職活動をしていないため、
統計上の「失業者」として反映されないことで、
現在2%ほどの失業率は、実は
このミッシングワーカーを加えると
リーマンショック時の5%を超える
7%!
ほどではないか、と推定されているのです。
「非正規労働者は転職を繰り返すうちに、
低賃金かつ劣悪な仕事しかなくなり、
転職に失敗すると、八方ふさがりの状況に陥る。
(これが、【トンネリング】です!)中高年になると病気や親の介護など、
様々なことから転職につまずき、
その結果、労働市場から排除された状態が長く続き、
「ミッシング・ワーカー」
となってしまうのだ。」
NHKも、「オイコノミア」で
【トンネリング】を取り上げたのだから、
NHK取材班と協働して、この
八方ふさがり状態の【トンネリング】
という用語を取り上げて欲しかったですね・・・。
具体例その④「ペスト」
ノーベル文学者のアルベール・カミュの代表作
『ペスト』。
その中にも、ペスト(死の病)の流行により、
街全体が封鎖・隔離され、何も支援されない
極限状態に置かれた市民が
【トンネリング】をおこす様子が描かれています。
(MRファーマシストであるあなたにも
知っててほしいことです)
アルベール・カミュ
出典:ウィキペディア
「この町では、もう誰も大きな感情の起伏を
持たなくなった。(中略)しかしたとえば医師リウーはそれこそが
まさに不幸なのだと考えていた。絶望に慣れることは、
絶望そのものより悪いのだ。記憶もなく、希望もなく、
彼らはただ、現在の中にはまりこんでいた。」
私は、正直、初めはこの文章の意味が
よく呑み込めませんでした。
なんとなくわかるんだけど、
しっくりわからない。
それが【トンネリング】を知って
すっかり腑に落ちました。
ペストという病気が絶望なのではないのだ、
ということをカミュは言いたいのです。
絶望よりいけないのは、
絶望に慣れて【トンネリング】状態になっている
このことなのだ、と力説しているのです。
そうすると、【トンネリング】状態になって
目の前の今しか見えない状態を
「記憶もなく 希望もなく
現在の中にはまり込んでいた」
という文学的表現の意味がすっかり分かりますね。
カミュの『ペスト』は
するどい観察眼で描いた優れた文学作品だと
私は思います。
【トンネリング】の概念を普及する意味
私は、例えばストーカー、パワハラ、ひきこもりなどのように
「今まで個人の問題だと
個別に片付けられていたものが
実は一つの大きな社会問題だったと
浮き彫りに出来る」
これらの概念の名付けと普及は、
とても重要だと思います。
それの一つとして、この
【トンネリング】
の用語が広く市民に普及されることを願っています。
今までに挙げたこれやあれやの具体例が
「ああ、これって個人の不運・努力不足じゃなくて、
それに陥る思考回路が誰にでもあるんだ・・・」
と、みんなが気づくことが出来るからです。
そして、過労・いじめ・病気・障害や貧困から陥りやすい
「会社を辞めるという考えも浮かばない」
「救いの手を求めようという発想も浮かばない」
「おもいやりに対し、感謝するという概念も出でこない」
「貧困から抜け出そうという気力もわかない」
というそれぞれ異なる思考停止の事例が
全て【トンネリング】から起因していることだと
まとまった一つの大きな問題として
扱って欲しいと願っています。
うーん。
本多博士の『私の財産告白』から
思わぬ社会問題にまで
話が発展してしまいましたね・・・。
次回は、【トンネリング】を予防するための考察と
シリーズ最終回は、本多式投資法を
考えていきたいと思います。
お楽しみに!